あと一年、もう一歩
全世界の科学者が手を尽くしたが、打開策は未だに見つかっていない。
あと一年。
あと一年で世界は滅亡する。
ピリピリし出した研究大学の廊下を、俺は先輩と二人で歩いていた。
残された希望は俺と柿崎先輩で作ったあの装置。
それを今から教授に報告しに行くのだ。
「やべぇ緊張してきた…」
隣を歩く先輩は既に汗びっしょりだ。
「お前はよく飄々としてられるな」と皮肉げに言ってくる。
確かに人から見ればそうかもしれない。だが少なくとも、俺は全く緊張しているわけではなかった。
その証拠に、俺の手のひらはじっとりと濡れている。
見せつけるようにハンカチでそれを拭えば、柿崎先輩はどこか安心した様子だった。
教授の部屋の前に着く。
桃里教授はこの研究大学で最も賢く、頼りにされている職員だ。
この教授の授業は面白い。毎回新しい発見があって、独創性は俺にやや似ているところがある。
教授は授業を終え、部屋に戻ってきていた。
俺は扉をノックし、「柚本です」と告げる。
すぐに返事が来て、入室を許可された。
ガチガチになっている先輩の代わりに扉を開け、スムーズに要件を伝える。
先輩は慌てて扉を閉めていた。
「ほう、いい案だね」
桃里教授は俺の話を聞き、装置を見せる日時を約束してくれた。
柿崎先輩はそれをメモして、俺にぎゅっと握らせた。
「月は遠くとも近い時代だ。君たちの発明が世界中の人々の勇気を出させる切欠になればいいね」
教授はそう言った。
礼を言って部屋を出る。
俺がほっと一呼吸、する前に先輩が突然肩を組んできた。
「やったじゃねえか!」
その顔はさっきまでとは違い晴々としていて、緊張で赤くなっていた顔をそのままに、目をキラキラと輝かせていた。
柿崎先輩が、こんなにも喜んでくれている――!
しかし安心するのはまだ早い。
装置がきちんと働かなければ元も子もないのだ。
「施設に戻って動作確認しますよ」
「なーっ!もうちょっと喜べよ~!」
緩みかけた頬をこっそりなおして、じゃれついてくる先輩を引き摺って、俺は来た道を逆戻りした。
手のひらに握りしめたメモ用紙は、緊張ではない汗で濡れていた。