01
ジリリリと枕元で鳴っているのは、配給の目覚まし時計だ。
それは随分と古めかしいフォルムをしていたが、音が小さい故にタダで貰えたのだから感謝する他ない。
「生者」の世界で捨てられたパーツを、こちらで再び組み合わせて作られている中古品だが、公式の配給物資なのだから、問題なく作動しているだろう。
街中で見かける時計は、粗悪品ばかりで正しい時間などわからない。
鳥も鳴かない、視覚的な朝が来ないただ薄暗いだけの「死者」の世界では、我が家に一つだけのこれに頼るしかなかった。
目覚ましのベルを壊さないよう静かに止めて、大きな染みのできた、バネがあちらこちらから飛び出たベッドから身を起こす。
かけていた毛布をどけると嫌でも目に入るそれには未だ慣れず、これからもずっと付き合っていくのだと思うとげんなりする。
ギシリと腰が悲鳴を上げたが、痛みは感じない。
痛みは「生者」の特権である。
ベッドサイドに手を伸ばし、身体を支えるための大きな丸太の切れ端を取る。
丁度いいサイズのものを、近所の職人に切らせたのだ。
何せぼくの腹にはぽっかりと穴が空いている。
物を詰めて背骨の代わりにしなければ、立ち上がることは出来ない。
損傷のある部分を切断して、上半身と下半身を結合するという方法もあったが、ますますゾンビの仲間入りだと思い断った。
生きていた頃の姿から、かけ離れたくはない。
それを勧めてきた「自称」医者の男は、患者の身体を弄れず残念そうにしていたが。
片手で丸太を丁寧に前から刺し込んで、皮膚のない背中の穴からはみ出ないようそっと押さえる。
足がちゃんと両方とも動くか確認してから、ゆっくりと地面に着地した。
足に力がかかると上半身と頭の重さでぐらり、少しふらつきはしたが問題はない。
普段から倒れないように訓練し、生前と変わらない美しい姿勢を保てるよう励んでいるのだから。
浮葉冬治(うきばとうじ)は17歳で死んだ。
腹を貫かれ、背中から全身を強く打ち付けた。
暴走したトラックの荷台から、勢いよく飛び出してきたのは鉄パイプ。
無残な最期だったが、後悔はなかった。
己の役目を果たせたことに満足感をも覚えていた。
背後で悲痛な叫びを上げる彼を振り返った後、急速に身体から力が抜けていくのがわかった。
それと同時に、走馬灯というべき記憶たちが頭の中を駆け巡った——ところで、ぼくの意識は途絶えたのだ。
腹パン貫通ブームが来ていた頃の産物。
二次創作で出そうとしたけど、設定が気に入ったのでオリジナル行きに。
2016年とかの文なので、続きが書けるかは心配。